【勉強会報告】働かないオジサンはいるのか(2025年6月24日)
2025年6月24日にDE&I研究会で第16回目となるランチ勉強会を実施しました。今回は「働かないオジサンはいるのか」と題して、日本企業の働き方に関する構造的な課題について考えます。
当日は株式会社⽇本コミュニケーションアカデミー代表取締役/河野 克典さんをファシリテーターにお迎えして、日本企業の働き方に関する構造的な問題について考えました。会社員であれば、いつかは辿る道…実際に定年に近づいている方々がどんな思いを持って働いているのか、若いうちにどんなことに考えておけば良いのか、を考えるきっかけにしていただければ嬉しいです。
【勉強会概要】
- タイトル:働かないオジサンはいるのか
- 登壇者: 河野 克典氏
- 実施日:2025年6月24日 12:00-13:00
【登壇者プロフィール】

河野 克典(かわの かつのり)
株式会社⽇本コミュニケーションアカデミー代表取締役
株式会社CONTACTIVITY 代表取締役
横浜国⽴⼤学つながり⽅研究所 所⻑客員教授博⼠(⼯学)
略歴: 富士ゼロックス(株)研究所にて(1994〜2020年)共通価値創造(Creating Shared Value)を推進するコミュニケーションプロセスを開発。
量子力学と人間科学の知見を組み合わせることで、社会的価値の高いイノベーションを創出。
(国内外特許登録 131件 、学術論文 41件、復興支援・地方創生 22地域)
【勉強会内容】
今回の勉強会では「働かないおじさん」という少し刺激的なテーマを起点に、まず「視点の違い」という切り口から話が始まりました。
いきなり登場したのが、川端康成の『雪国』の一節。「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」という有名な書き出しです。この一文から、日本人の多くは“自分が電車に乗っていてトンネルを抜けた瞬間の風景”(写真左)を思い浮かべるそうです。一方で、英語ネイティブの人たちは“電車を外から俯瞰して見ている”様子(写真右)を思い浮かべるそう。英語では「The train~」と訳されるため、主語が“電車”であることも大いに関係していますが、文法構造の違いだけでなく、文化的な視点の違いも表れている例といえるでしょう。


もうひとつ、視点の違いを象徴する興味深い例があります。
自画像というと、有名なゴッホの自画像(写真左)のように自分の顔を鏡で見て描いたものを思い浮かべる方が多いと思います。一方、音速の単位で知られる物理学者のマッハは、自分の左目から見た世界を自画像として残しています(写真右)。手足や顔の一部までもが、自分の視界にある通りに描かれているのです。これには「本来、自分自身というものはこのようにしか見えないのではないか」という、深い哲学的な問いが込められています。
コミュニケーションにおいても自分の視点をどこに置くかで、その性質が大きく変わってきます。よく「face to faceのコミュニケーション」といいますが、実際に2人で対話をするとき頭がふたつ見えているでしょうか?たとえば議論や交渉の場では、自分と相手の立場を認識しながら進める、頭が2つ見えている状態のコミュニケーションといえます。一方で、傾聴や共感といったコミュニケーションでは自分の存在を一度脇に置き、相手の話に耳を傾ける、つまり頭がひとつしか見えていない状態でのコミュニケーションといえるでしょう。どちらのスタイルも意味のあるコミュニケーションですが、大切なのは「いま自分の視点がどこにあるか」をしっかりと自覚することです。
働き方のズレを生んでいるのは、視点の違いだけではありません。もうひとつの大きな要因が、時代の変化です。
たとえば「教育」と「学習」の違いを見てみましょう。教育とは、正解があるものを体系的に他者から教わるプロセスです。読み書きや計算、専門知識など、学校や講師が教える内容がこれにあたります。こうした領域は、今やAIが得意とするところでもあります。
一方で、学習とは正解が一つに定まらないものに取り組み、自分で考え、習得していくプロセスです。アートや研究、実践的なスキル、キャリア形成などがこれにあたり、人と人が学び合い、個人の興味や探究心を原動力にして進んでいきます。こうした領域は、まさに人間ならではの力が問われる部分です。
脳の使い方にも似た構造があります。左脳が得意とする論理的思考や分析力は、AIによってどんどん代替されています。たとえば、企業分析や市場調査といった作業は、AIに頼れば一瞬で結果が出てくるようになりました。こうした能力は、すでに競争が問われなくなってきているともいえるでしょう。
一方で右脳が担う、直感的な判断、空間や関係性の把握、ひらめきや創造力は、これからの時代の差別化につながる重要な要素になっています。
こうした視点で見てみると、「働かないおじさん」に見える人たちは、これまで左脳的な仕事で成果を出してきた世代ともいえます。ところが、正解がないことに取り組み、自ら学び、創造していく力が求められる今の時代では、彼らのやり方が目に見えるかたちで活かされにくくなっている。そんな“ズレ”が、「働いていないように見える」という印象を生んでいるのではないか、そんな仮説も見えてきます。
ビジネスにおける勝利の方程式も、時代の変化で変わりつつあります。
従来、事業の安定には「コーゼーション」が有効といわれてきました。「コーゼーション」とは、いわゆる“逆算型”のアプローチ。目標を決めて、それを達成するための計画を立て、KPIやPDCAで管理しながら進めていく方法です。
一方で、近年注目されているのが「エフェクチュエーション」。こちらは、まず“自分が今持っているもの”からスタートします。自分は誰で、何を知っていて、何ができるのか。どんなネットワークやリソースを活用できるのかを起点に、トライアンドエラーを繰り返しながら、少しずつ目標や方向性を定めていくやり方です。先が見えづらく変化が激しい現代においては、この「まずやってみる」姿勢が新しい価値を生むと考えられています。
これまでは「目標を定め、徹底的に考えて、行動する」がビジネスの大前提でした。しかしVUCAの時代においては、考えすぎて動けなくなるよりも、時代の変化に合わせた柔軟さが求められているのかもしれません。
【ディスカッション内容】
前半パートの内容を踏まえ、勉強会後半は参加者の皆さんとディスカッションを行いました。以下にてディスカッションの一部を紹介します。

時代の変化を考えると、「おじさんだけが悪い」って話ではないと思うんです。ただ、これまでの勝利の方程式って、「きっちり考えて、徹底的に準備して、それを実行すれば結果が出る」という世界だったと思うんですよね。でも今はそれを手放して「気づいて、行動する」みたいな、ちょっとアート寄りの仕事のスタイルが求められていると感じています。
実際、自分は17年ホログラムの仕事をして特許も出したけど、「この分野に未来はない」と思って、コミュニケーション領域に飛び込んだんです。そのときも「深く考えて決断して行動すれば、誰でも成果が出る」と思ってスタートしました。それはまさにPDCA的な、きっちり考えて決めて行動すると成功するという世界で、40歳くらいまではその勝利の方程式でやっていました。会社の優秀な人たちもそうやって仕事していたし、自分もそう教わってきました。でも、「それでもダメなことがある」と気づいたんですね。そのときに何をしたかというと、「手放して、気づいて、行動する」でした。「考えて決断して行動する」というのは、課題が見えている世界では非常に有効なんですけど、そうじゃない世界では、まったく違うアプローチが必要だと気づいて行動することが重要だったんです。
おじさんがなぜ働かないのかというと、おそらくずっと「考えて決断して行動する」というやり方でやってきた人たちが、AIやクラウド化のような変化、あるいは「個人が強くなるのではなく、自我を薄めてチームで強くなる」といった今のドライブに慣れていないのかなと感じています。それが一つの大きな要因かなというのが、私の仮説です。

ありがとうございます。私自身は今30代なんですけど、こういった問題って私の世代だから気になる話なのか、それとももっと前からあったのか、すごく気になっています。河野さんが30代や20代後半のころ、「おじさん働いてないな」「おばさん働いてないな」と思われた経験があったのか、それとも最近よく言われる「VUCAの時代」で、先が読めなくなっているからこそ、世の中のスピードについていけない人たちが目に見えるようになってきただけなのか。今後企業がどう変わっていくのかを考える上でも、過去と今とで当事者がどう変わってきたのか、そして感情面ではどういう変化があるのかを、お聞きしてみたいです。

僕自身、儲かっていた会社にいたからというのもありますが、上の人がガツガツ働く必要があるとは思っていませんでした。むしろ、視座が高くてセンスも良いから、大きなマネジメントを任されてるんだなと、尊敬して見ていました。当時から、上の人ほど定時で早く帰っていたし、「適切な判断をしてるんだな」と感じてたんです。
でも、時代が変わって「成果主義」になりました。目標管理が明確になって、その目標値によってボーナスとか給料が反映される。チームごとに横のチームと戦わせるっていうふうに、どんどん成果主義が進んでいった先に、上司が働かない、ちゃんとやってくれない、みたいなギスギスした空気が出てきたんですよね。それが自分が30代、40代ぐらいの頃だったと思います。結局、時代の構造変化とともに「働かないおじさん」問題も顕在化してきたのかなと感じています。

なるほど。つまり事業環境によって、会社の目標管理とか、組織に求めることが明確化されたことの弊害なんでしょうか?

私はその弊害だと思っています。要は、中で競わせるのってすごく簡単じゃないですか。成果に応じて給料を分配します、というのはもちろんまともな考えだと思うんですけど、何が起こるかというと、みんな外を見なくなるんですよ。中で競うから。情報が中にこもっちゃうんです。これは、自分が働き方改革をやっていた立場として、すごく感じていたことです。
だから自分はマネージャーになった時に、外向きに、自分が外に出ても通用するように、コンピテンシーを上げるような仕事をするのが大事だと考えました。それはやる気が出るんですよ、部下に対しても。「会社が潰れたとしても、今の仕事の延長でスキルアップしておけば、他の会社に転職できますよ。だからこの仕事には意味があるんだよ」というようなマネジメントをすると、割と皆さん頑張るんです。
でも、完全に保守にいってしまった人は、「働かない人」になってしまう。社内のルール、社内の規定を必死に守りながら、自分の城を守るようになった人は、確かにいたと思いますね。

私は河野さんより少し下の世代で、上にバブル世代が多かった。正直、「あんなに人がいるのに仕事してない」って思う場面は多かったですね。自分たちは就職難で社会に出たので、余計にそう感じたのかもしれません。とはいえ、若い頃に「働いてない上司が多い」とまでは思ってなかった気がします。当時のマネージャーは、ちゃんとマネジメント業務をしている人が多かった。でも今はプレイングマネージャーも増えて、現場とのギャップが大きい。役割が違うだけなんだけど、「働いていないように見える」構図になっているんだと思います。上の世代が多く残っている分、期待されている人・されていない人の差も目立ってきた感じですよね。

そうですよね。日本ってまだまだ年功序列が残っていて、若いうちから評価が高くても結局「年上の同じ役職の人の方が給料は高い」って状況ですよね。若い頃は自分の仕事に集中していたから気にしていなかったけど、経験を積んで視野が広がってくると、「同じ役職なのに仕事量が全然違う人」が目に見えてきた気がします。
特に大企業だと、明らかに業務量に差があるのに給料は同じというケースがあって、不満を抱えている人も多い。しかし明日は我が身な面もあり、社会の構造的なゆがみを感じてしまうんです。どうすればもっと気持ちよく働けるんだろう…って、ずっと考えているところです。

公平性を保つというはなかなか難しいですよね。大企業で公平にしようとすれば内部エネルギーが投入されて組織が弱体化する。「好きなようにやれ」と言うと給料の不平等が問題になる。これは大企業が必ず直面する課題だと思います。
そこにエネルギーを注ぎすぎるのは良くないと思います。終身雇用も崩れつつある今、企業と個人はもっと距離を取る時代になってきてるのかもしれませんね。少し答えになっていないかもしれませんが、そんなところです。

ありがとうございます。若い人からは「働かない人=老害」と見られがちだし、年上の人たちは「自分は老害じゃない」と思いたい。今「老害の人」っていう本を読んでいるんですが、「自分は大丈夫」と思ってしまうことが問題なんですよね。そういう「見えない壁」での分断が起きないような組織づくりができたらいいなと思っています。本日は貴重なお話、ありがとうございました!
ランチタイムの1時間という短い時間の中で、学びの多い時間となりました。視点の違いや時代の変化によって求められる役割や働き方が変わり、そこから生じるが誤解や分断について深く考えることができました。世代ごとの立場や背景を尊重しながら、全員が気持ちよく働ける組織をどう作るか、そのヒントを得られた大変有意義な勉強会でした。河野さん、参加者の皆さん、ありがとうございました。
【DE&I研究会】
2023年4月に立ち上げたダイバーシティのすすめにて運営するコミュニティで、勉強会やコミュニティ形成を通じて、以下2つを実現できる場として設立。
- 本当に意味のあるD&Iが何かを共に考え、行動に繋げる原動力とする
- 自分の周囲を変えられる力を養い、会社に左右されない自分自身の望むキャリアや働き方を見つける
DE&I研究会では毎月1回ペースでランチタイムに勉強会を実施しています。
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