【勉強会報告】人事のリアルとDEI推進のジレンマ(2025年5月26日)

2025年5月26日にDE&I研究会で第15回目となるランチ勉強会を実施しました。今回のテーマは「人事のリアルとDEI推進のジレンマ」です。

人事の仕事や業務を進める上での難しさや、人事視点での組織のDE&I推進をどう考えているのかについて、合同会社SUNNY 代表の瀧本沙弥佳さんとBloom株式会社代表の郡山真美さんに対談形式でお話ししていただきました。

【勉強会概要】

  • タイトル:人事のリアルとDEI推進のジレンマ
  • 登壇者: 瀧本 沙弥佳氏、郡山 真美氏
  • 実施日:2025年5月26日 12:00-13:00
  • 対談概要:
    • DEIに関わるようになったきっかけ
    • 人事領域における現場との“ズレ”
    • 現場の巻き込み方
    • 「自分ごと化」するには

【登壇者プロフィール】

合同会社SUNNY 代表
瀧本沙弥佳(たきもと さやか)

18年間、人事領域の業務に従事。大手上場会社からスタートアップまで様々な規模の会社への人事領域での支援経験あり。またクライアントの業種も金融、IT、サービス、建築、建設、不動産、人材、製造等、多岐に亘る。

Bloom株式会社 代表
郡山真美(こうりやま まみ)

15年間、採用を中心とした人事業務に従事。直近8年は、Expedia Group, Walt Disney, AdobeでAPAC全体の採用活動とDE&Iの活動に従事。2025年、採用とDE&Iを専門とするBloom株式会社を設立。

【対談内容】

DEIに関わるようになったきっかけ

瀧本

今日は公私ともに交流のある郡山さんと対談形式で「人事のリアルとDEI推進のジレンマ」についてお話できればと思っています。よろしくお願いします。早速ですが、郡山さんがDEIに関わるようになったきっかけは何ですか?

郡山

「私って、ちょっと人と違うかも?」 そう感じた経験がいくつもあって、それがDEIに関心を持つようになった原点だと思います。

まずは、幼少期の家庭環境です。母は建設業の社長で、5年間ほどですが、父が主夫業を担っていた期間もありました。当時の日本社会ではかなり珍しい家庭だったと思います。次に大きかったのが、留学の経験です。オーストラリアとデンマークに留学したことで、日本人というより“アジア人”というくくりで見られる機会が増え、マイノリティとして扱われることに違和感を覚えました。またデンマークでの生活は、社会福祉の充実ぶりにカルチャーショックを受けることもありました。その後、バリ人の元夫との生活も自身がマイノリティだなと感じるひとつの大きな要因になりました。出産もそうですね。育児と仕事を両立できるのか、本当にやっていけるのかという不安と常に隣りあわせでした。でも、そのときに支えてくれた上司がいたんです。彼は、ワーキングペアレンツへの理解が非常に深く、当時の私の状況を自然に受け入れ、サポートしてくれました。

今振り返ると、こうした「自分が少数派かもしれない」と感じた体験が、自分の中のDEIへの関心を高めてくれたのだと思います。今度はサポートしてくれた当時の上司のように、自分が当事者になってマイノリティグループに貢献したいと思うようになったのがDEI業界に足を踏み入れたきっかけですね。

瀧本

たしか私が郡山さんと出会ったのって、留学からバリ人のご家族との生活を始めたあたりでしたよね。マイノリティであることのもどかしさとか、社会の中で自分が「ちょっと違うかも」と感じたことの積み重ねが、郡山さんのDEIの原点になってるんですね。

人事領域における現場との“ズレ”

瀧本

では早速、今回のメインテーマでもある「現場とのズレ」についてですが、人事の仕事をやっていると、いろんなところで現場との“ズレ“が出てきますよね。郡山さんは実際に人事の業界にいてどんなズレを感じていましたか?

郡山

そうですね。現場っていろんな定義があると思うんですが、私の経験で以下の4つの場面に分けてお話しさせていただきます。

郡山

まず、業務の現場との間で生じるズレとしては、制度導入や目標設定、理念との乖離が挙げられます。たとえば、時短勤務や在宅勤務、男性育休といった制度を整えても、「一部の人だけが優遇されている」といった反発が起きることがあります。また、女性管理職比率や障碍者雇用といった数値目標を掲げても、現場には経験者や責任者が不在で、「業務が回らない」「進め方がわからない」といった声があがることも少なくありません。さらにDEIの理念が、現場の具体的な業務にどう結びつくのかが見えにくく、そもそも「DEIって自分たちの仕事に関係あるの?」という疑問を持たれることもあります。

DEI推進担当やERG(Employee Resource Group)と役員層との間でも、「DEIをどう位置づけるか」という認識の違いや、活動への定性的な評価・支援の不足によってズレが生じます。

また、DEIへの関心をまだ持っていないメンバーとの間では、研修やイベントへの参加意欲に差があったり、取り組みの成果を可視化・評価する難しさから、温度差や距離感が生まれてしまうといった現状もあります。

瀧本

ありがとうございます。一言に“ズレ”いっても、いろんな場面での乖離がありますよね。今お話しを聞いて改めて思ったのが、「自分にとって重要かどうか」という視点を持ってもらうことです。それが重要だと感じてもらうためには何ができるのか、そしていろんな場面でのズレを解消するための工夫を考えることが大切だと感じました。

現場の巻き込み方

瀧本

では少し具体的な話に移っていきたいと思います。こういったズレを踏まえて現場を巻き込んでいく上で、うまくいった工夫はありますか?

郡山

これも私自身の経験からお話しするんですが、3つあります。

1つ目は、データや数字を噛み砕いて伝えることです。たとえば、「日本におけるLGBTQ+の人口が8.9%」というデータがあった場合に、これをそのまま提示しても多くの方にはピンときません。そこで「11人に1人」と置き換えたり、自社の従業員の人数に換算して「○名程度」と伝えると具体的にイメージしやすくなります。それでもピンとこないときは、同じ比率のものに置き換えるんですね。この8.9%という数字は日本の苗字TOP10の割合に相当します。なので、周囲にいる佐藤さん、鈴木さん、高橋さん(以下省略)がLGBTQ+の割合と同じだと考えれば、とても具体的にイメージできますよね。

2つ目は、対象グループの関心事項と絡めるという点です。たとえば新しい層や関心の薄い層をインボルブしたいときは、彼らが興味を持つテーマに注目します。私自身の例でいえば、AIやクリエイティビティに関するワークショップを開催し、その中に多様性やインクルージョンというキーワードを織り交ぜるという工夫をしました。

最後はジェネレーションの違う当事者の意見を聞いて、変化を理解してもらうことです。同じ社員でもジェネレーションによって経験やDEIへの理解度は異なります。時代の変化を踏まえて、世代の異なる当事者の声を聞いてもらうことで納得感が得られ、DEIへの理解や関心が深まるケースも少なくありません。

瀧本

なるほど!確かに今お話しを聞いていて、身近な佐藤さん、鈴木さんを思い浮かべたらとてもイメージしやすくなりました。関心をもってもらうためのデータの取り扱いは大事なポイントですね。

「自分ごと化」するには

瀧本

こういった工夫を重ねて、組織メンバーひとりひとりが当事者意識をもつということが、DEI推進の鍵だと思っています。そのためには社内でどのようにDEIの大切さを「自分ごと化」していくといいでしょうか?

郡山

まず「マジョリティの特権」という観点でお話しします。これは、社会の中で多数派に属していることで自動的に得ている安心・信頼・自由などのことを指します。本人がそれを“特別なもの”と感じていなくても、マイノリティ層からすると“当たり前ではないこと”があります。例えば男性は、出産でキャリアを中断するという前提が少ないですし、同性愛者であれば、パートナーとの関係を隠さずに話せるという無意識の特権を持っています。このように特権を持っている人は、自分の「当たり前」が実は「特別」であることに気づきにくいんです。DEIの本質は、そうした特権に気づいて行動に移すこと。たとえば「キャリアが中断されにくい立場にいる男性が、出産によってキャリアを中断せざるを得ない女性の存在に気づくこと」もその一歩になります。「特権があるからこそ、場を整える側になれる」という考え方がDEIの重要なポイントです。

次に「マイクロアグレッション」についてもお話しさせてください。これは「小さな攻撃」と訳される、無意識で悪意のない日常的な発言や行動のことを指します。たとえば障碍者に「がんばってるね!」と声かけすることも、本人にとってはただ普通に生活しているだけなのに、過度に称賛されたと感じられ、繰り返されることで大きなストレスや心理的安全性の低下につながることがあります。

「そんなつもりじゃなかった」というのはNGで、大切なのは相手がどう受け取るかです。また言われた側も、違和感をそのままにせず、指摘できるように練習することも必要です。

マジョリティの特権やマイクロアグレッションに気づくためには、まずは無意識の偏見(アンコンシャスバイアス)に気づく機会を作ることが大切です。「その言葉、誰かを置いてけぼりにしてない?」と自問自答してみてください。誰もが、マイノリティになり得るんだと自覚しておくことも重要です。

瀧本

私自身もこの場面では自分はマジョリティだな、この場面はマイノリティだなと自覚することがあります。マイノリティだなと感じる場面ではやっぱり居心地の悪さを感じますよね。最初の第一歩としては、自分がどこに属しているかを意識し、マイノリティのときどう感じているかを振り返る。そして、その気づきをもとに、マイノリティの人たちのために何ができるかを考えることが大切だと思います。


DEIは推進担当者だけの仕事ではなく、業務の現場、ERG、役員など、組織に属するすべての人が取り組むべきものです。一人ひとりが「自分ごと」としてマイノリティに寄り添い行動を起こすことこそが、地道ながらも組織を変える原動力になる、そんな気づきを得られた大変有意義な対談でした。瀧本さん、郡山さん、ありがとうございました。

【DE&I研究会】

2023年4月に立ち上げたダイバーシティのすすめにて運営するコミュニティで、勉強会やコミュニティ形成を通じて、以下2つを実現できる場として設立。

  • 本当に意味のあるD&Iが何かを共に考え、行動に繋げる原動力とする
  • 自分の周囲を変えられる力を養い、会社に左右されない自分自身の望むキャリアや働き方を見つける

DE&I研究会では毎月1回ペースでランチタイムに勉強会を実施しています。

※詳細はこちら

 メンバーは随時募集しております!ご興味ある方はぜひ一度ご連絡ください!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です