【勉強会報告】育児の取り組み方への男女ギャップはなぜ生まれるのか(2025年3月21日)

2025年3月21日にDE&I研究会で第14回目となるランチ勉強会を実施しました。今回は「育児の取り組み方への男女ギャップはなぜ生まれるのか」をテーマとして、WithIris株式会社/森本 彩加(もりもと さいか)さんをお迎えして、勉強会を実施しました。

男性に比べて女性は「家庭か仕事か」を選択せざるを得ない状況に陥りやすい。それはなぜなのか、どうすれば乗り越えられるのか、日本に根深く残るジェンダーギャップや家庭内格差などをデータを用いながら参加者の皆さんと一緒に考えました。

【勉強会概要】

  • タイトル:育児の取り組み方への男女ギャップはなぜ生まれるのか
  • ファシリテーター:森本 彩加
  • 実施日:2025年3月21日 12:00-13:00
  • 勉強会概要
    • 「育児」における男女ギャップの現状
    • なぜ男女ギャップが生まれるのか
    • 男女ギャップを乗り越えるためには

【ファシリテータープロフィール】

WithIris株式会社 代表取締役

森本 彩加(もりもと さいか)


「ジェンダーギャップ解消の鍵は家庭にある」と捉え、パートナーシップに注目。キャリア意欲の高い20〜30代女性がパートナーとの関係強化を通じてライフイベントとキャリアを両立できる社会を目指し、女性向けライフキャリア研修や企業・自治体の男性育児支援の仕組み作りに従事。

【勉強会内容】

1. 「育児」における男女ギャップの現状

皆さんは日頃ご自身の育児や、職場でお子さんがいる方と接する中で、育児におけるジェンダーギャップを感じたことはありますか?おそらく多くの方が「Yes」と答えると思います。勉強会では、まずジェンダーギャップが実際にどの程度起きているのかをデータを用いて検証してみました。

総務省の生活基本調査を2006年、2021年のデータで見比べてみると、15年経過しているにも関わらず妻である女性の育児負担はほとんど減っていないことが分かります。共働き世帯では、現在でも夫の家事関連時間の約3〜4倍を妻が担っていることになります。

出典元:「我が国における家事育児時間の男女差」(総務省統計局)

また夫婦の家事・育児の役割分担についてのアンケートでは、妻がすべて、もしくは妻が夫より多くの家事・育児を担っていると答えた家庭は全体の約85%を占めており、それによって家庭内のルールを決めるのも妻となっている家庭が大半であることが分かりました。

出典元 : 株式会社リンク【子育て世代アンケート調査】2024年


男性の育休取得率を見てみると、ここ5年で急上昇しており2023年度には3割を超えたことも話題になりました。しかし取得率が年々上昇している一方で、取得期間は1か月未満の方がほとんどであるのが現状です。

出典元:厚生労働省【令和5年度雇用均等基本調査】


女性の社会進出が進んでいるにも関わらず、家庭内の役割分担においてはまだまだ男女ギャップがあることがデータから見て取れました。
ではこの男女ギャップによって引き起こされる問題としては、どんなものがあるでしょうか。以下の4つの影響についてそれぞれ深掘りしていきたいと思います。

 ①女性のキャリア形成への影響
 ②夫婦関係への影響
 ③非婚化・少子化への影響
 ④男性の育児参画への影響

①女性のキャリア形成への影響

女性にとって育児とキャリアは決して切り離して考えることはできないものですが、男性にとってはどうでしょうか。
子どもが生まれる前と後で働き方はどう変わったかというアンケートでは、男性の4割が「何も変わっていない」と回答しています。一方で女性は勤務時間や働き方を工夫して調整している方が多く、何かしらの変化があったと答えた方が7割を超えています。

出典元:株式会社プロフェッショナルバンク「育児×男女の働き方」に関する調査

別のアンケートでは、小さな子どもがいる女性社員を幹部候補として期待する割合が、同じ小さな子どもがいる男性社員に比べ、約半分になっているというデータもありました。女性であるがゆえに、キャリアを調整せざるを得ず、場合によってはキャリアダウンや退職を余儀なくされるケースも実際に起きてしまっているのが現状です。

②夫婦関係への影響

男女格差が埋まらないことで夫婦関係にも当然影響を及ぼします。男性が勤務時間や働き方を調整できず育児への協力体制がなかなかとれない家庭では、妻が「ワンオペ育児」を強いられ、そのフラストレーションから夫婦喧嘩が絶えないケースも。
特に子どもの乳幼児期に妻の夫に対する愛情は変化しやすいというデータもあり、乳幼児期の育児を夫婦で協力できたか否かがその後の夫婦の愛情関係に大きく影響していることが分かりました。

③非婚化・少子化への影響

キャリアを積みたい、キャリアアップを目指したいと考えている女性の中には、仕事と家庭の両立に不安を抱き、キャリアのために結婚・出産のタイミングを見送ったり、「しない」という選択をする方も増えてきています。
まだ働いていない若い世代にも、将来のキャリアを見据えて「結婚はしたくない」と考えている方もおり、若年層にも結婚や出産は少なからずキャリアを阻むものであるという認識が浸透してしまっています。

④男性の育児参画への影響

男女格差によって苦しんでいるのは女性だけではありません。「育児をする男性」にとっては、育児領域における男性の存在がマイノリティであることに苦しんでいます。
まだまだ男性が育休を取ることに理解のない場合もあれば、育休をとれたとしても育休さえあければこれまでと変わらず長時間労働できる人材とみなされ、家庭と職場の双方の責任の中で苦しむ男性も増えています。

2.なぜ男女ギャップが生まれるのか

では男女ギャップはなぜ生まれてしまうのか。以下の4つの社会的要因から原因を探っていきたいと思います。

 ①家庭と労働の分離
 ②男性への「稼ぎ手プレッシャー」
 ③育児の担い手を女性と想定した文化・社会制度
 ④育児スタート前に生まれる夫婦間ギャップ

①家庭と労働の分離

歴史を振り返ると、狩猟採集時代や農耕社会においては、育児と労働は基本的に生活の中で一体化されていました。その後、農耕社会から工業化社会に移り変わる中で、男性が労働で外に出る時間が長くなり、育児は母親が行うものという概念が強まりました。
戦後には、男性は働きに出て女性は家の中で家事・育児をするという、いわゆる「専業主婦モデル」が確立されましたが、その後平成・令和という時代を経て女性の社会進出が加速してきました。しかし、男性と同じように活躍する女性が増えた一方で、育児は母親の役割として残されたままになっていることが、女性の負担が増えている大きな要因となっています。

②男性への「稼ぎ手プレッシャー」

歴史的に女性は家事・育児の担い手として捉えられてきたのと同様に、男性には「稼ぎ手」としての社会からの強い期待があります。
「稼ぎ手としての責任感から仕事をやめられない」という方や「収入のことを考えなくていいのなら他に自分のやりたい仕事をやる」という考えの男性も多くいるのではないでしょうか。
こうした男性の「稼ぎ手プレッシャー」も男女格差を広げている一つの要因といえます。

③育児の担い手を女性と想定した文化・社会制度

社会制度や文化が、育児領域における男女格差を再生産している側面もあります。具体的には、育児関連サービスのほとんどが母親をマーケティング対象としていることであったり、また「母子健康手帳」をはじめ行政が実施する子育て支援が、原則として「母親」を対象としていることであったりします。
後者は、1965年に制定された「母子健康法」という法律に基づいて設計されており、その法律の中では「父親」は育児の担い手として想定されていないことから生まれています。男性の育児参画が進んでいる一方で、法律をはじめとする社会制度がそれに追いついていないという現状は無視できません。

④育児スタート前に生まれる夫婦間ギャップ

夫婦間ギャップは、実は育児より前の「妊娠期間中」に生まれています。③で例にあげたような行政支援や情報サービス、妊婦健診、各種マーケティングなどで、妊娠期間を通して子育て情報に多く触れていた女性側のほうが育児について詳しくなり、結果的に「女性が主担当で男性に共有する」という構図になってしまうのです。さらに産後の新生児期(=育児の立ち上げ期)で一緒に育児に携われないと、その構図が決定的になります。

3. 男女ギャップを乗り越えるためには

さまざまな要因によって生まれてしまっているこの根深い男女ギャップは、どうすれば乗り越えていけるのでしょうか。企業、行政、夫婦という3つのレイヤーからそれぞれ解説してみます。

まず企業レベルの取組みとしては、「仕事だけにコミットできる健康な男性」という前提を見直す必要があると考えます。具体的には長時間労働の見直しや、テレワークなどの柔軟な働き方が可能になる制度の導入等です。
また「育児と仕事の両立支援」を性差なく実施していくことも企業の大事な役割です。ぜひ企業にお願いしたいのは男性社員に「育児と仕事の両立」でどういったことが課題になりやすいか、どうやって乗り越えていけるかなどを早期の段階からインプットすることです。育児情報に触れにくい男性だからこそ、そうした情報を企業が発信してくれることで解像度が上がり、男性社員の戦略的育休の有効活用や子育て離職の予防などにつながります。

行政という観点では、まず「母子保健法」の枠組みを見直す必要があると考えます。制度や情報発信のあり方を見直し、女性のみならず「育児をする男性」も支援の対象となるように改訂・改善していくことは令和の育児支援に必要不可欠だと感じています。
また保育の質や柔軟性を高め、ライフスタイルに応じた保育の選択肢を提供したり、相談・支援窓口を拡充したりすることで、育児の負荷を分散させ社会的育児を強化していく重要性も強く感じています。

そして夫婦という関係においては、子どもが生まれる前からしっかり2人で情報収集し、妊娠中から子育てのイメージを持っておくことで、育児のある生活をどうドライブしていくかを事前に擦り合わせておくことが大切です。特に育休の取り方についてはなんとなくで決めるのではなく、お互いの意思や今後のキャリアを考慮してきちんと話し合って決めてほしいと思います。育休の取り方を考える・話し合うことは、その後の夫婦のあり方や役割分担を考えるひとつの大きなきっかけになると思います。
その上で、「家庭内で完結させない」という観点も大事にしてほしいと思います。単純に女性が担っている育児を男性にも負担させ家庭内でそのバランスを調整することだけが、男女ギャップを埋める方法とは限りません。企業や行政の支援を得ながら、家庭全体で担わなければいけない育児負担を根本的に減らしていくということも各家庭で意識すべき点だと考えています。

当日は男性の方も参加いただき、男性目線でのご意見も聞くことができました。育児と仕事の両立というテーマだとどうしても女性に課題や不満が溜まりやすく、声が大きくなりがちですが、男性視点での難しさを知ることができ、とても気づきの多い勉強会となりました。
男女格差を減らしていくために企業・行政・夫婦レベルでできることをそれぞれが当事者意識を持って取り組み、個々人の意識改革だけでなく組織全体、社会全体で「性差なく育児しやすい環境」を整えていくことが大切だと感じました。

【DE&I研究会】

2023年4月に立ち上げたダイバーシティのすすめにて運営するコミュニティで、勉強会やコミュニティ形成を通じて、以下2つを実現できる場として設立。

  • 本当に意味のあるD&Iが何かを共に考え、行動に繋げる原動力とする
  • 自分の周囲を変えられる力を養い、会社に左右されない自分自身の望むキャリアや働き方を見つける

DE&I研究会では毎月1回ペースでランチタイムに勉強会を実施しています。

※詳細はこちら

 メンバーは随時募集しております!ご興味ある方はぜひ一度ご連絡ください!

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